脊柱(頸椎・胸椎・腰椎)と脊髄の障害 / 鎖骨・胸骨・肋骨・骨盤骨・臓器の障害 / 鎖骨骨折 / 頚椎・胸椎・腰椎骨折 / 骨盤骨骨折(腸骨、恥骨、坐骨) の解決事例

21 交通事故から20年経過していたが、除斥期間の適用が制限され賠償金が支払われた事案

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後遺障害等級併合10級 :脊柱(頸椎・胸椎・腰椎)と脊髄の障害 / 鎖骨・胸骨・肋骨・骨盤骨・臓器の障害 / 鎖骨骨折 / 頚椎・胸椎・腰椎骨折 / 骨盤骨骨折(腸骨、恥骨、坐骨) 、20代女性

脊柱障害、骨盤変形、醜状痕
本件は、交通事故から20年の除斥期間が経過していたにもかかわらず、保険会社の賠償責任を認めた画期的な事例です。

※本裁判例は、判例時報2222号、自保ジャーナル第1918号に掲載されました。

保険会社は除斥期間を過ぎているので一切支払わないと主張していましたが、第一審は原告である依頼者側が勝訴、保険会社側は控訴し、控訴審で約2850万円にて和解しました。

  2,850
万円
保険会社提示額 - 万円
増加額 - 万円

相談から受任に至るまで

被害者の方は、受傷時わずか2歳であり、成長に伴い、どのような障害が生じるのか不確かだったことから、交通事故から20年が経過する約4ヵ月前まで、保険会社の一括対応にて治療を継続してきました。
その後、事前認定手続にて後遺障害として併合第10級が認定され、保険会社は、交通事故から20年が経過する12日前になり、初めて賠償金の提示をしました。

被害者の方は、保険会社から賠償金の提示を受けた後、金額が妥当であるかを相談するため、幣事務所にご相談に来られました。
保険会社の提示は裁判基準ではなく、金額的に妥当ではありませんでしたが、幣事務所にご相談に来られた時点で既に交通事故から20年が経過していたため、今回のケースでは、除斥期間(※次の項にて詳しく説明します)の適用の有無が大きな問題となりました。

除斥期間とは

民法第724条は、
「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
と規定しています。

このうち、後段が「除斥期間」を定めたものです。

すなわち、今回のケースで民法第724条後段をそのまま適用すると、交通事故から20年が経過しているため、被害者の方の損害賠償請求権は既に消滅していることとなります。

除斥期間は、消滅時効とは異なり、中断や停止がありません。
そのため、除斥期間の適用が問題となる場合には、不法行為の時から20年が経過する前に、被害者が訴外で損害賠償請求したり、加害者が損害賠償債務を認めていたとしても、原則として、除斥期間の経過を止めることができないのです(なお、除斥期間が経過する前に訴訟提起した場合は、除斥期間の効果は生じないとされています)。

除斥期間の適用制限について

除斥期間の適用が制限された事例はありますが、適用制限を認めた判例は、とても少ないです。

一例をあげると、最判平成10年6月12日(民集52巻4号1087頁)があります。

平成10年判例は、集団予防接種の副作用で重度心身障害者となった原告らが国に対して国家賠償法に基づく損害賠償等を求めた事案です。

訴訟提起の時点で被害が生じてから22年が経過していたものの、「不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6箇月内において右不法行為を原因として心身喪失の状況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6箇月内に右損害賠償請求権を行使したなどの特段の事情があるときは、民法第158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である」と判断し、
停止事由を類推適用して除斥期間の適用が制限される場合があることを示しました。

今まで除斥期間の適用の有無が問題となった事案は、水俣病や戦後補償等の大規模な事案が多く、
今回のケースのように、交通事故の場合に除斥期間の適用の有無が問題となった事案は、極めて稀です。

今回のケースにおける具体的な事情

今回のケースでは、次のような事情がありました。

〇 被害者の方は、受傷時2歳だった。

〇 交通事故により、頚椎歯突起骨折、脳挫傷、右腎挫傷、右鎖骨骨折等の重大な傷害を負い、
  成長に伴い、どのような障害が生じるか不確かであり、長期に及ぶ経過観察が必要だった。

〇 事前認定手続による後遺障害等級が判明したのは、除斥期間が経過する約3ヵ月前だった。

〇 保険会社が示談案を提示したのは、除斥期間が経過する12日前だった。

 除斥期間経過後においても、保険会社が被害者に対して示談案を検討するよう求めていた。

こ保険会社は、除斥期間経過前に示談案の提示をし、しかも、除斥期間経過後においても示談案を検討するよう求めていたのですが、弁護士が被害者の方より委任を受けた後に賠償請求をするや否や、既に除斥期間が経過しているため損害賠償請求権が消滅していると主張しました。

しかし、保険会社と被害者の方の従前の経緯等を考慮すると、今回のケースで除斥期間を適用することは、被害者の方にとって余りに酷な結果を招いてしまいます。

そこで、弊事務所では、上記最判等の裁判例を踏まえ、今回のケースでは、除斥期間の適用を認めるべきではないと主張し、訴訟を提起しました。

 除斥期間の適用を制限する理由としては

 ① 停止事由を類推適用する考え方

 ② 除斥期間の起算点を、不法行為時ではなく、症状固定時とする考え方

 ③ 除斥期間の利益を事前に放棄したという考え方

 ④ 除斥期間の適用を制限すべき特段の事情があるとする考え方

 ⑤ 除斥期間には中断が認められるとする考え方(いわゆる「弱い除斥期間」)

  等があり得ると思いますが、個々のケースに応じて、柔軟に法律構成を組み立てる必要があります。

裁判所の判断内容

さて、今回のケースで、裁判所は、除斥期間の適用の有無について、次のとおり判断しました。

少し長くなりますが、該当部分を引用します(下線は、弊事務所によるものです)。

 「民法724後段の20年の期間は、被害者側の認識のいかんを問わず不法行為時からの一定の時の経過によって法律関係を確定させるための請求権の存続期間すなわち除斥期間を画一的に定めたものと解するのが相当である。

 (中略)平成24年8月8日に後遺障害について症状固定の診断を受けたとしても、そのことをもって原告に対して事前認定の結果が出る前の事前認定手続期間中に訴えの提起を求めるのは困難である(仮にそのような訴えの提起があったとしても、交通事故損害賠償請求訴訟の実際に鑑みれば、訴訟が動き出すのは事前認定の結果が出てからになると思われ、そのような訴えの提起を敢えて求めることに意味があるとも思えない)こと

及び事前認定を受けた平成24年9月26日ころから訴えの提起を準備するとしても、それから6か月の期間は通常必要と認められることからすれば、

原告が症状固定の診断書を被告側任意保険会社に提出して事前認定の手続を進めさせてから平成25年2月23日に本訴を提起するまでの経過は、原告が本件交通事故による損害賠償請求権を行使する一連一帯の行為と捉えることができ、そうすると、本件では本件交通事故から20年の除斥期間内において権利行使がなされたと見るのが相当であるから、これによって除斥期間の満了は阻止されたことになると判断するのが相当である。

 以上のように自動車損害賠償責任保険の付保されている本件交通事故において損害賠償請求権行使の行為を一定の時間的な幅を持つものと捉えたとしても、その幅は症状固定の診断書を提出して事前認定の手続を進めさせてから認定結果が出るまでの事前認定手続期間及び事前認定から6か月の訴え提起準備期間に限られているから、法律関係を画一的に確定しようとする除斥期間の趣旨を乱すことはないというべきである。」

このように、事前認定手続から訴訟提起に至るまでの行為を一連一体のものと捉える裁判所の法律構成は、今までにない画期的なものです。

また、裁判所は、「6か月」を基準として挙げていることからすると、停止事由を念頭に置いているとも考えられます。

 裁判所の示した法律構成については、論者によって評価が異なり得るところではありますが、被害者保護という不法行為法の理念を実現するものとして、非常に高く評価できると思います。

解決方法、受任から解決までの期間

 訴訟、約1年1ヶ月(控訴後和解)。

担当弁護士のコメント 担当弁護士のコメント

今回のケースで、裁判所は、除斥期間について、今までにない画期的な判断を示しました。

これは、除斥期間の適用が制限された数少ない事例の1つとして、先例的な価値が非常に大きいと思います。

依頼者の方も、保険会社が示談金案を提示してわずか数か月でこのような事態になるとは思ってもみなかったと思います。担当する私たちも、当初相談をお受けしたとき、裁判所が除斥期間を制限することは稀であるため、とても困難な事案であると思いました。

しかし、保険会社が示談案を提示してきたわずが12日後に、除斥期間が過ぎてしまったので、一切賠償されません、というのは、結論として到底納得できるものではありませんでした。

そこで、私たちは訴訟を提起し、専門家の意見書などの証拠も揃え、必死に裁判官を説得しました。

最終的には、地裁で勝訴、高裁で和解、依頼者に賠償金が支払われることになり、弁護士冥利に尽きる嬉しい結果となりました。

本裁判例は、自保ジャーナル第1918号に掲載される予定ですので、是非ご一読頂ければと思います。

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