19 右肩鎖関節を脱臼した男性に12級5号が認定され、約640万円で示談
後遺障害等級後遺障害別等級12級~13級5号 :肩鎖関節脱臼 / 鎖骨・胸骨・肋骨・骨盤骨・臓器の障害 、40代男性会社員
右肩鎖関節脱臼
右鎖骨に変形障害を残存させた男性会社員について12級5号が認定された事案。保険会社は、後遺障害逸失利益として、労働能力喪失率5%・労働能力喪失期間5年を主張していましたが、最終的に労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間10年にて解決することができました。
保険会社提示額 | 60 万円 |
増加額 | 580 万円 |
相談内容
幣事務所にご相談来られた被害者の方です。
ご相談に来られた際、被害者の方は右肩鎖関節の脱臼により、治療をしておられました。そこで、後遺障害に該当する見込み等についてご説明して正式に受任した上で、症状固定後、被害者請求にて後遺障害の申請をしました。
当事務所では、後遺障害の申請をする事案では、事前認定ではなく、被害者請求の手続にて申請しております。
賠償交渉
後遺障害等級の申請後、第12級5号が認定されたことを受け、裁判基準に基づく請求額を確定させて、保険会社に対し賠償請求しました。
その後、約1ヵ月程度で保険会社から賠償金額案の回答がありました。
保険会社の提示は、傷害慰謝料として65万円、後遺障害逸失利益として約110万円(労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間5年)、後遺障害慰謝料として150万円という内容でした。
依頼者はすでに自賠責から265万円受領していたため、受取額としては60万円という提示でした。
下記の解決額と比較しても、保険会社の提示が裁判基準を大きく下回っていることは明らかです。
そのため、保険会社からの提示を受けた後、交通事故紛争処理センターへと申立てをしました。
示談の内容
受任前の保険会社の提示はありませんでした。受任後の保険会社の提示と解決額は、次のとおりです。
受任後保険会社提示額(受取総額) | 解決額(受取総額) |
---|---|
(受任前提示なし) 受任後60万円 |
約640万円 |
<内訳(抜粋)> 保険会社提示額 解決額
傷害慰謝料 65万円 → 約120万円
後遺障害逸失利益 約110万円 → 約560万円
後遺障害慰謝料 150万円 → 290万円
肩鎖関節脱臼と後遺障害等級
肩鎖関節とは鎖骨と肩甲骨の間の関節のことです。
肩鎖関節脱臼は、肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯の損傷の程度や鎖骨のずれの程度等に応じて、①捻挫、②亜脱臼、③脱臼、④後方脱臼、⑤高度脱臼、⑥下方脱臼の6つに分類されています。
このうち、①②は保存療法(リハビリなどによる治療)が、④⑤⑥は手術療法が選択されることが多く、③は場合により手術療法が選択されることもあります。
また、肩鎖関節脱臼により、
肩関節の可動域が受傷していない肩関節の可動域と比較して2分の1以下に制限された場合には第10級10号に、
4分の3以下に制限された場合には第12級6号に該当する可能性があります。
他方で、仮に機能障害に該当しない場合においても、鎖骨の変形障害が残存した場合には第12級5号に、
変形がなくとも痛みが残存する場合には第14級9号に該当する可能性があります。
今回のケースでは、被害者の方に第10級10号もしくは第12級6号に該当する可動域制限は残存しなかったものの、右鎖骨の変形障害が残存したため、第12級5号が認定されました。
第12級5号の後遺障害逸失利益
第12級5号の場合、後遺障害逸失利益についてよく争いとなります。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害により労働能力が減少するため、将来発生するものと認められる収入の減少のことをいいます。
そのため、鎖骨の変形障害として第12級5号が認定された場合には、被害者の側において、鎖骨の変形による労働能力の減少を主張立証する必要があります。
この場合、例としてよく挙げられるのが、モデル等の外見が重視される職業です。
しかし、今回のケースのように被害者の方が会社員の場合、仕事をする上で他人に鎖骨を見られることはほとんど想定されないため、そもそも鎖骨が変形したことによる仕事への支障はないのではないか、それゆえ、後遺障害逸失利益は認められないのではないかとの考え方があり得ます。
保険会社が前記のように労働能力喪失率及び労働能力喪失期間を控えめに認定しているのも、このような考え方が背景にあると思われます。
では、鎖骨の変形障害として第12級5号の後遺障害を残存させた場合、モデル等以外の被害者の方には後遺障害逸失利益は認められないのでしょうか。
そのようなことはありません。この場合には、①変形障害のみ残存する場合、②変形障害に加え、変形部分に痛み等の神経症状が残存する場合、③変形障害に加え、肩関節の運動障害(※)が残存する場合の、3パターンに分けて考える必要があります。
※機能障害が残存する場合には、第10級10号ないし第12級6号に該当します。そこで、このような機能障害には該当しないものの、事実上肩関節の可動域制限が残存している場合、機能障害と区別して、これを運動障害と呼びます。
このうち、①のパターンでは、さきほどご説明したように、モデル等の外見が重視される職業以外に従事する場合には、後遺障害逸失利益は認められにくい傾向にあります。
②及び③のパターンでは、痛みや運動障害が職務への支障となり得るため、後遺障害逸失利益が認められる傾向にあります。
もっとも、この場合においても、被害者の方が従事する職業の内容、後遺障害による職務への支障等を具体的に主張することが非常に大切になります(デスクワークの仕事よりも、肉体労働的側面が強い仕事の方が、より後遺障害による仕事への支障があると考えられます)。
なお、②のパターンでは、労働能力喪失率は10~14%程度、労働能力喪失期間は経年により緩和すると想定されることから制限的に判断される場合が多いです。
他方で、③のパターンでは、労働能力喪失率は10~14%程度、労働能力喪失期間は67歳まで認定される場合が多いです。
もっとも、いずれのパターンであっても、事故後の減収の有無及び程度、降格の有無等の事情により、判断は変わってきます。
(全く減収がない場合や降格もしていない場合には、労働能力喪失率及び労働能力喪失期間は、控えめに認定される可能性があります)
今回のケースでは、被害者の方には、右鎖骨の変形障害に加え、変形部分の痛み及び右肩関節の運動障害が残存していました(上記②③パターン)。
そこで、交通事故紛争処理センターにおいて、被害者の方の職務内容を具体的に説明し、痛みや右肩関節の運動障害による職務への支障を具体的に主張立証することで、最終的に労働能力喪失率14%、労働能力喪失期間10年にて解決することができました。
解決方法、受任から解決までの期間
約1年3ヶ月(交通事故紛争処理センターによる解決、後遺障害の被害者請求から示談まで)。
鎖骨の変形障害として第12級5号が認定された場合には、このように後遺障害逸失利益が争われることが多いのですが、職務内容や後遺障害による支障等の個別具体的な事情により賠償金額も大きく変わってきます。
もし、今後の賠償交渉等に不安がございましたら、一度、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
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