損害賠償請求訴訟の訴訟物【コラム】
裁判における審判の対象を、訴訟物と呼びます。今回は、損害賠償請求訴訟の訴訟物について検討してみましょう。
交通事故においては、治療費、交通費、休業損害、慰謝料、逸失利益、修理代など、多様な財産的損害や精神的損害が発生します。
この点、かつては、1個の加害行為(交通事故)により多数の権利・利益が侵害された場合には、侵害された権利・利益ごとに別個に損害賠償請求権が成立し、それぞれ別個の訴訟物を構成すると考えられていました。
しかし、慰謝料と逸失利益はそれぞれ別個の訴訟物を構成するのであるから、それぞれの請求額を超えて認容することは違法であるとして争われた事案において、最高裁は、「本件のような同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は1個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は1個であると解すべきである。」と判断しました(最高裁昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)。
そのため、治療費、交通費、休業損害、慰謝料、逸失利益、修理費など、各個別の損害項目について、被害者である原告が主張する金額を超えて損害額が認定されたとしても、全体の認容額が原告の請求する総額の範囲内であれば、特段問題はないことになります。
ちなみに、当該最高裁判例は、一部請求されている場合の過失相殺の方法について、いわゆる外側説を採用した点においても、民事訴訟法上重要な判例として位置付けられています。
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