自動車の交通事故の重要判例【コラム】
自動車事故により人身損害が生じた場合、運転者が損害賠償責任を負うことは当然ですが、運転者以外の者が損害賠償責任を負うことがあります。
そのうちのひとつとして、「運行供用者責任」とよばれる責任があります。加害車両がいわゆる任意保険に加入している場合、その任意保険会社が治療費や慰謝料等の損害を賠償しますので、「運行供用者責任」が問題となることはありません。
しかし、加害車両が無保険車である場合で、加害者に損害賠償金を負担する資力がない場合に、加害者以外に損害賠償責任を負担する者、すなわち「運行供用者」が問題となります。 自動車損害賠償保障法(自賠法)3条本文は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定しています。
この「自己のために自動車を運行の用に供する者」を、一般に、運行供用者責任とよび、同条の定める損害賠償責任を負う者となります。
運行供用者の概念について、様々な議論がありますが、自賠法が明文で定めているのが「保有者」です。すなわち、自賠法2条3項は、「この法律で『保有者』とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。」と規定しています。
この「保有者」は、一般に、所有権のほか、賃借権その他いかなる法律関係によるかを問わず、正当な権原に基づく使用権を有する者と考えられています。
「運行供用者」に該当するかどうかが争われた事案として、農業協同組合の運転手が私用のために組合保有車を無断で運転して交通事故を発生した事案(最判昭和39年2月11日・民集18巻2号315頁)は、「たとえ事故を生じた当該運行行為が具体的には第三者の無断運転による場合であっても、自動車の所有者と第三者との間に雇用関係等密接な関係が存し、かつ、日常の自動車の運転及び管理状況等からして客観的外形的には、自動車の所有者等のためにする運行と認められるときは、右自動車の所有者は…自動車損害賠償保障法3条による損害賠償責任を免れない」と判断し、いわゆる外形標準説の考え方が運行供用者責任成否の判断に適用されるとしました。
つまり、第三者の無断運転の場合であっても、その第三者と自動車の所有者が雇用関係等密接な関係がある場合には、その運行によって生じた損害について、その所有者が同条3条の損害賠償責任を負う場合があることが示されました。
他方で、運行供用者の責任が否定される場合として、盗用された自動車の保有者があげられます。
ただし、この場合でも、判例は、保有者の自動車管理上の落ち度の有無や程度、盗用運転開始の態様、運転開始後事故発生までの時間的・距離的間隔等を総合して、保有者の責任の有無を判断する傾向にあります。
どのような者が「運行供用者」に該当するかどうか判断するためには、裁判例の分析等が必要になります。
そのような判断が必要になった場合、弁護士へ相談されることをお勧めします。
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