34 交通事故により腰椎変形障害を負った被害者について、労働能力喪失率が争点となった裁判例
後遺障害等級併合10級 :上肢(肩、腕、肘、手首、手指)の障害 / 橈骨・尺骨骨折 / 脊柱(頸椎・胸椎・腰椎)と脊髄の障害 / 脊柱の障害 / 頚椎・胸椎・腰椎骨折 、40代男性会社員
手関節機能障害、脊柱変形傷害
本件は、脊柱変形障害にて第11級、右上肢変形障害にて第12級、後遺障害等級併合第10級が認定された交通事故被害者について、労働能力への影響を否認する保険会社の主張を排斥し、右上肢変形障害第12級と併せて労働能力喪失率20%を裁判所が認めた事案です。
※本裁判例は、自保ジャーナル第1902号に掲載されました。
保険会社提示額 | 1,500 万円 |
増加額 | 2,400 万円 |
交通事故状況
交差点において、自動二輪車で直進する被害者に対し、対向右折四輪車が衝突した交通事故です。
依頼者のご要望
損害保険会社提示額約1500万円について、訴訟を提起して裁判基準での解決をご要望でした。
後遺障害等級認定
ご相談時にすでに後遺障害等級併合第10級(脊柱変形障害第11級7号、右尺骨変形障害第12級8号)が認定されていました(被害者請求)。
訴訟
損害保険会社は、腰椎圧迫骨折による脊柱変形障害第11級について、脊髄には損傷がないとして労働能力への影響を否定しました。
弁護士は、依頼者がデスクワークに従事しているため腰痛が激しくなることや、腰痛のため腰に負荷のかかる荷物運搬業務が困難となってしまったこと等、職務遂行に対する具体的な支障を詳細に主張立証しました。
その結果、裁判所は、脊柱変形障害による労働能力喪失率を第12級相当と判断し、右上肢変形障害第12級と併せて、第11級相当の20%と認定しました。
争点1 脊柱変形障害の労働能力喪失率
交通事故事案において、逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」という計算式により計算されます。
労働能力喪失率とは、労働能力低下の程度を意味し、労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して評価されます。
本件の被害者は自賠責において、①右尺骨茎状突起骨折後の変形障害及び疼痛等について第12級8号に、②第2腰椎圧迫骨折後の脊柱の障害等について第11級7号に認定されていました。
保険会社は、原告の労働能力喪失率について、前記①の第12級8号に関しては14%と認めたものの、前記②の第11級7号については、脊柱の変形障害は労働能力への影響はないと主張しました。
これに対し、前記②の脊柱の変形障害及び腰痛について、弁護士が現実に職務遂行に影響する具体的事実を主張した結果、裁判所は、第12級相当の労働能力喪失を認定し、次のとおり判示しました。
「原告には、重量物を運搬することができず、同じ体勢で座っているだけで強くなる腰痛が残存しており、これは、脊柱の変形障害に起因するものであることを考慮すると、原告の後遺障害による労働能力喪失の程度は、後遺障害等級表12級相当と評価すべきである。したがって、上記の後遺障害と併せて、本件事故により原告は20%(後遺障害等級表併合11級相当)の労働能力を喪失したものと評価するのが相当である。」
争点2 定年後の基礎収入
逸失利益の基礎となる基礎収入は、原則として事故前の現実収入とされます。
ただし、定年退職後の収入について、それまでと比較すると低額になることが多いとして、保険会社は定年退職後の基礎収入を事故前の現実収入より低くすべきと争うことがあります。
本件において、原告が勤務する会社は60歳定年であり、65歳まで再雇用としていました。
保険会社は、60歳定年後の基礎収入について、事故前の現実収入より大幅に低い金額にすべきと主張しました。
これに対し、当方は、(1)本件事故がなければ定年に至るまで昇給していたであろう部分が存在する、(2)後遺障害により転職可能な職種に制限が生じている、(3)仮に事故前の現実収入を用いないとしても、原告の最終学歴は大学院卒であるから、大学・大学院卒男子の年齢別平均賃金を採用すべきと反論しました。
裁判所は、次のように判示して、当方の主張を採用し、保険会社の主張を排斥しました。
「原告の基礎収入は、①症状固定時から定年時までについては、本件事故前年の給与収入○万円とし、②60歳から67歳までの7年間については、定年再雇用者の給与収入は低額であるが、①において定年までの昇給を考慮していないことも斟酌して、平成23年賃金センサス大卒男子60~64歳の平均賃金607万7500円とするのが相当である。」
受任から解決までの期間、解決方法
約1年3ヶ月。第一審判決(確定)。
交通事故による損害賠償について、後遺障害逸失利益が損害全体の中で大きな割合を占めます。
逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」という計算式により算出されるため、訴訟において基礎収入や労働能力喪失率が大きな争いになることがあります。
本件において、保険会社は、「変形障害は労働能力に影響しない」、「定年再雇用後の収入は低い」といった一般論を主張したのに対し、当方は事案に則した個別具体的な事実を主張立証しました。
その結果、裁判所は、保険会社の主張を排斥し、当方の主張を採用しました。保険会社は第一審の判決に対して控訴しなかったため、第一審判決が確定し、解決しました。
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