自動車事故で訴訟の際、気をつけるべきこと【コラム】
自動車が普及した社会において、自動車事故は一定の確率で生じてしまうことから、誰もが被害者あるいは加害者になり得ます。
交通事故に関して、任意交渉で示談に至らず、最終的に訴訟を選択せざるを得ない場合があります。訴訟を行う場合、被害者本人が訴訟を遂行することは困難なため、弁護士へ依頼することが一般的です。交通事故に関して訴訟を行う場合の注意点やメリット、デメリットについて説明します。
第一に、過失割合についてです。 裁判上、被害者に過失割合が存在すると認定された場合、慰謝料のほか既に支払済みの治療費についても過失相殺が適用されるため、過失割合によっては今後受領できる損害賠償額が大きく減額される場合があります。
このため、裁判上、過失割合について大きな争いとなることが少なくありません。
過失割合については、東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]別冊判例タイムズ38号」、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」において、事故類型ごとの基本過失割合及び修正要素が掲載されています。
裁判においては、通常、これらの基準に従って過失割合について主張立証します。事故態様や加害者の過失の内容などについて、実況見分調書等の刑事記録が重視される傾向にあります。
例えば、加害者が運転中に脇見運転をしていて被害者の存在に気づかず衝突したことが刑事記録上確認できる場合には、加害者に著しい過失があったと評価され、基本過失割合から5%から10%程度、被害者に有利に過失割合が修正されることがあります。
また、被害者が65歳以上の歩行者の場合、被害者に有利に過失割合が修正されることがあります。裁判の途中段階において、裁判官がどのような事情を重視して過失割合を判断するか明らかでない場合があり、このような場合、被害者に有利になり得る全ての事情について主張立証する必要があります。
第二に、弁護士費用についてです。
民事交通事故裁判では、慰謝料などの損害元金に加えて、弁護士費用相当損害金が別個に認められます。判決では、一般に、弁護士費用相当損害金として、今後支払われる損害元金の10%が認められます。例えば、判決で、今後支払われる慰謝料や逸失利益等の金額が1000万円の場合、この1000万円とは別個に、相手方に対し、弁護士費用相当損害金として100万円を支払うことが命じられるのです。この弁護士費用相当損害金は、被害者が実際に弁護士に支払う弁護士費用と一致するものではなく、一律に10%として算出される傾向にあります。
なお、裁判上の和解の場合、弁護士費用相当損害金は、調整金として評価される場合が多いです。
第三に、遅延損害金についてです。
民事交通事故裁判の判決では、交通事故日を起算点として損害賠償金の支払日まで、年5%の遅延損害金(民法第404条)が認められます。例えば、今後支払われる損害賠償金の元金が1000万円で、事故日から支払日まで3年の場合、判決では遅延損害金として150万円認められます。
なお、裁判上の和解の場合、遅延損害金について調整金として評価されることが多いですが、全額に満たないことが多いようです。
前記弁護士費用及び遅延損害金は、任意交渉では認められないものであり、裁判を行うことで初めて認められます。 他方で、裁判のデメリットとしては、(1)任意交渉と比較して解決まで長期間必要となることです。特に交通事故と後遺障害との間の因果関係が争点となり、原告及び被告の双方が医師による意見書を提出するような場合、解決まで2年以上かかる場合もあります。また、(2)任意交渉と比較して被害者の負担が大きくなります。被害者において、準備書面の確認や相手方の主張に反論するための事実関係をまとめる必要があります。本人尋問が行われる場合は少ないですが、裁判所への出頭が必要になる場合もあります。
一般に、訴額が大きい場合(例えば3000万円以上)には、ある程度の負担を考慮しても、弁護士費用相当損害金や遅延損害金を受領するため裁判を行うメリットがあると考えられます。
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