肩関節の機能障害(肩鎖関節脱臼、鎖骨骨折)と後遺障害等級認定
肩鎖関節脱臼と鎖骨骨折の場合の後遺障害等級
これまで2回にわたり「肩鎖関節脱臼」「鎖骨骨折」の場合に、想定しうる後遺障害等級について説明しました。
肩鎖関節脱臼や鎖骨骨折により、肩関節に制限がある場合、想定しうる後遺障害等級は「10級10号」「12級6号」です。
肩関節の機能障害には、8級6号という等級もありますが、8級6号は関節がほとんど動かない、麻痺に近い状態ですので、肩鎖関節脱臼や鎖骨骨折の場合は、「10級10号」または「12級6号」が問題となってきます。
後遺障害等級認定基準の概要(10級10号、12級6号)
上肢の「10級10号」または「12級6号」の認定基準は以下のとおりです。
※上肢とは肩関節・肘関節・手関節までの3大関節及び手指の部分です。後遺障害等級では、手指は別の認定基準が適用されます。
基準 | 後遺障害等級 |
---|---|
患側の関節可動域が健側の関節可動域の |
10級10号 |
患側の関節可動域が健側の関節可動域の |
12級6号 |
可動域の測定方法は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して定めた「第2 関節可動域の測定要領」に基づいて行われます。
原則として健側(けんそく)の可動域と患側(かんそく)の可動域とを比較し、評価しますが、健側にも障害がある場合は参考可動域角度との比較となります。
※健側とは機能障害を受けていない側のことをいいます。
屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋とは
肩関節の可動域角度の計測には、①屈曲、②伸展、③外転、④内転、⑤外旋、⑥内旋という動きをして計測します。
①②屈曲・伸展
屈曲とは、図のように腕を前に引き上げる運動のことをいいます。
伸展とは、図のように屈曲の逆、腰から後ろへ引き上げる運動をいいます。
(測定方法)肩峰を通る床への垂直線を基本軸としながら,上腕骨を移動軸として測定します。前腕は中間位とし体幹が動かないように固定します。せき柱が前後屈しないように注意して測定していきます。
②③外転・内転
外転は、図のように肩の水平位置から手のひらを上向きにして、頭上まで振り上げる運動をいい、内転は、図のように肩の水平位置から手のひらを下向きにして、腰位置まで振り下げる運動をいいます。
(測定方法)肩峰を通る床への垂直線を基本軸としながら,上腕骨を射動軸として測定します。体幹の側屈が起こらないように90°以上になったら前腕を回外することを原則とします。
⑤⑥外旋・内旋
外旋とは、ひじを90度に曲げた状態で手の甲側(外側)へ返す運動をいい、内旋とはひじを90度に曲げた状態で手を手のひら側(内側)へ返す運動をいい
(測定方法)ひじを通る前額面への垂直線を基本軸としながら,尺骨を移動軸として測定します。上腕を体幹に接して,肘関節を前方90°に屈曲した肢位で行います。前腕は中間位とします。
主要運動と参考運動
肩関節の機能障害において、10級10号の認定基準は「患側の関節可動域が健側の関節可動域の2分の1以下に制限されているもの」、12級6号の認定基準は「患側の関節可動域が健側の関節可動域の4分の3以下に制限されているもの」とされていますが、実際にはどのような計測方法が用いられるのでしょうか。
すでに説明しているとおり、可動域の測定方法は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して定めた「第2 関節可動域の測定要領」に基づいて行われます。
肩関節の場合、主要運動は①「屈曲」②「外転」とされており、①の屈曲の可動域が基準以下、または、②の外転の可動域が基準以下であれば、10級10号または12級6号が認定されます。
参考運動とは、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合、参考運動のひとつについて可動域角度が2分の1(10級10号の場合)または4分の3(12級6号の場合)以下に制限されていれば等級認定をするものです。
この「わずかに上回る」とは、屈曲についてプラス10°、外転内転についてプラス5°までをいいます。
主要運動
等級 | 屈曲 | 外転 | 内転 |
---|---|---|---|
参考可動域 | 180° | 180° | 0° |
10級10号 | 90° | 90° | 0° |
12級6号 | 135° | 135° | 0° |
参考運動
等級 | 伸展 | 外旋 | 内旋 |
---|---|---|---|
参考可動域 | 50° | 60° | 80° |
10級10号 | 25° | 30° | 40° |
12級6号 | 40° | 45° | 60° |
肩関節機能障害10級10号の具体例
可動域は、原則として健側の可動域と患側の可動域とを比較し、評価しますが、以下のイラストのような状態が該当すると考えてよいでしょう。
屈曲が90°、外転が90°
肩関節機能障害12級6号の具体例
可動域は、原則として健側の可動域と患側の可動域とを比較し、評価しますが、以下のイラストのような状態が該当すると考えてよいでしょう。
屈曲が135°、外転が135°
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